蜃気楼のように

ヤフブ時代の遺留品

新藤兼人、脚本「続・酔いどれ博士」

「続・酔いどれ博士」


新藤兼人監督の公演を拝聴したことがあるのです。
40年ほど前ですが、監督の話の中で忘れられない言葉が
あります。「自分の一番、楽な生き方をしなさい」
楽に生きるとは、自分の一番好きなことをして生きてゆくこと。
苦しくても辛くても、自分が好きな事なら続けられると。
例え親に反対されても自分がやりたいなら続けること。
それが自分には一番楽なはずだと監督は仰ったのです。
生涯、映画に携わってきた新藤兼人だから
言えるセリフではないかと思います。
監督業だけでなく、脚本も多く書かれた監督ですが、
中にはユニークな脚本もあるのです。。。


勝新太郎主演の娯楽作品
(監督は井上昭)
続と付いてるのは第二作だから。
(私、第一作は一回しか観ていませんが、この(続)は
3回ほど見てるのです。理由は、画像で分かる…)
医師免許をはく奪された放浪の医者の話です。
イメージ 1


まず、登場シーン
若い娘を襲っている不良どもを一網打尽に。
イメージ 2


ふらりとやって来たスラム街
ホルモン鍋の店の前に行列が出来ていた。
店では女将の清川虹子と助手(?)の悠木千帆が
面接をやっていた。何故、面接に来たのかと問う清川虹子
「失業者は行列には並べと言うからな」と勝新
清川はS・X商会と言う怪しげな会社の名を掲げて
ある事業を始めようとしていた。
清川が作ろうとしているのは(清く正しい)売春業だ。
この映画、昭和41年の作品です。私がこの映画を初めて
観たのはその5年後くらいです。意味が分かりませんでした。
オババになった今でも分かりません。
(清く正しい)売春ってなんだ?
イメージ 3


「あんたには医者をやってもらう。免許はある」
他人の医師免許を見せる清川。
ここで働く女たちの健康診断をしてほしいと言う清川。
これがまた分からん。清く正しい売春業ならキチンと
本物の医者を雇えよ。(勝新が免許はく奪とは言え
元は医者だと言う事を二人は知らない)
ところで、悠木千帆は先日亡くなった樹木希林の旧芸名で、
ここでは作家志望の女を演じているんだけど、
白いブラウスと黒のタイトスカートが意外に似合っています。
この平凡なスタイルって、美人女優を、ますます美しく
知的に、そしてセクシーに見せるアイテムなのに。
岩下志麻岸恵子は益々映えるのです)
イメージ 4


面接に来た女その一、 藤原礼子
「てんやわんや次郎長道中」と言う映画で実に小粋な
女岡っ引きを演じてて(カッコいいなあ)と思ったものでした。
若山富三郎との結婚歴あり。後、離婚。
ちょっと前にスキャンダルのあった若山騎一郎のお母さん。
イメージ 5


その二、ご存知、春川ますみ
「赤い殺意」のヒロインはこの人しかいない。
イメージ 6


その三、西岡慶子
大阪の人。大阪のドラマによく出ていました。
「うどん」と言うドラマで松山容子をいびる小姑の役で、
それでもヒロインの尽力で結婚することが出来、
打ち掛け姿で「うちが好きな人の所へお嫁に行けるのも
みんな、お姉さんのおかげです。ほんまに有難う」と
三つ指ついて頭を下げるシーンは良かったわ。
「ぬかるみの女」では強烈な役をやってたけど。
イメージ 7


「にせ医者じゃないのか」と疑う荒木巡査(名前は不明なので)
やる気があるのかないのか、よく分からない。
冷めてるようで熱血漢のようで。
この頃の荒木一郎、こういう白けた若者役が多いです。
イメージ 8


健康診断を受けている春川ますみと話を聞く悠木千帆
よく見るとけっこうアブナイ場面だわ…
イメージ 9


若い嫁を貰った床屋の親父と、呆れて見ている荒木巡査
親父役の田武健三 ベテランの脇役俳優です。
イメージ 10


山陰から娘を一人売り込みに来た女(今きたよ)
どうも村長らしい。村を代表してここへやって来た。
台風で村の作物が全滅して金が要る。
そこで村で会議を開いて、娘を売りに来たのだ(!)
こんな設定、あり得るか?
イメージ 22


その娘、姿美千子
この映画の中の(掃き溜めに鶴)です。
勝新は娘が肺を患っているのを見抜く。
「ここがどんな場所か知っているのか」
「知っています。でも決心したんです。帰りません」
イメージ 11


私がどうも説明しにくいのは、この辺りから。
ま、この二人、狸ですから、良からぬ図り事を。
山路義人(左)と神田隆(右)
表は料理屋など経営してるが裏では(暗くて不潔な)
売春業なども営んでいるようで。
イメージ 12


清川が設立しようとしている清く正しい売春業に
反対する婦人団体の代表に演説させて
取り壊しを図るのだ。
イメージ 13


「私は暗く不潔な売春じゃなく、ストレスを発散できる
清く正しいSEXの場を作りたい!」と清川。
(私には清川の言ってることが支離滅裂としか思えない)
昭和41年、私は中学生だったので世間の事はまったく
分かりませんが、日本でSEXと言う便利な言葉が
使われだしたのは、この頃ではないかと。知らんけど)
イメージ 14


神田隆は脅しをかけようとしてナイフをかざし
反対に勝新にやられて勝新は焼酎とドスで手術を。
見ていた悠木千帆は(暴力的ヒューマニズム)に惚れてしまう。
イメージ 15


眼鏡をはずして勝新に迫る悠木千帆
私、若い頃、この人に似てるって言われたことあるんですが、
この写真なら許そう…
イメージ 24


勝新が心配した通り、娘のレントゲンには肺に影が写っていた。
「田舎へ帰って養生すれば治る。帰りなさい。
そして田を耕して作物を作るんだ」
「努力しても台風が来たらまたダメになります。苦しいだけです」
「努力して、苦しんで、そうやって生きていくんだ」
イメージ 16


「あの村長は良い人かも知れんが弱い人だ。
皆でもっと強い村長を選べ」
「強い村長ってどんな人ですか?」
「受け取った金を持ち逃げすることを進めるような奴だ」

その弱い村長はこんなことを言っている。
「私は地獄へでもどこへでも落ちます。でも村の連中に
約束したんです。金を持って帰らにゃいけんのです」
1分間ワンカットをしゃべり通した、今きたよ師匠。さすが。
イメージ 17


狸たちは勝新を追い出そうと画策して
街の若者たちをそそのかす。
イメージ 18


そそのかされた若者たちは勝新を担いで
どぶ川へ突き落してしまう。
イメージ 25


皆が探している間にこっそり帰ってきた勝新
こんな汚い(で良い?)建物なんかぶっ潰してやる
と、思ったかブルドーザーで神田隆の店などを
ぶっ壊し始めた。
イメージ 19


そのまま姿をくらます勝新
「みんなで先生を探すんだ。私しゃ、先生に
聞かなきゃいけない事があるんだよ!」
イメージ 20


「私しゃ、これからどうすりゃ良いんだよ!」
と叫ぶ清川虹子(写真はそのシーンではないんですが)
思えば清川虹子が、この映画で一番頑張っていた。
(でも、なんでこの場面でこんなセリフが出るのか不思議)
脚本がカオスですよ、新藤兼人監督…
イメージ 23


メッセージを残して去って行った酔いどれ男に敬意を表して
一升瓶を飾る荒木巡査(カッコイイわ…)え、どこが、って?
イメージ 21


こんなストーリーです。
この映画には巨悪とか極悪人が登場しないし
殺人なども起こらないし、サラリと観られる娯楽作品なんだけど、
どうも消化不良を起こしそうで。なんでこうなるのか…と。
猥雑な街の、それでも懸命に生きてる愛すべき人々、
そんな姿を見せようとした作品なんだろうとは理解できる。
でもそこまで行かなかった、こんなに曲者が揃っているのにね。
勝新も(酔いどれ)と言うほど呑んでないし、もっと
暴れてほしかった。ちょっと残念な映画でした。
私は荒木一郎を見るために観てるからご満悦。
新藤兼人もこんなシナリオ(脚本)を書いてしまう事もあるのね。