蜃気楼のように

ヤフブ時代の遺留品

死者との婚礼譚

ドラマ「幽婚」


中学生の頃、舟木一夫和泉雅子の共演で
主題歌もヒットした「絶唱」と言う映画があった。
山陰の大地主の息子と小作人の娘の
許されぬ恋の話で、周囲の反対を押して
結婚したものの、夫は召集令状で戦地へ赴き
残された妻は貧しい生活の中でひたすら
夫の帰りを待ち続け、病に倒れ死んでしまう。
一足違いで戻ってきた夫と死んだ妻を憐れんで
周囲の人たちは、妻の遺体に花嫁衣裳を着せ
二人が叶わなかった祝言をあげさせてやる…
と、私は(周囲の善意)と思っていたのだけど、
ひょっとしたらそんな風習があったのかも。
CSの歌謡曲専門チャンネル舟木一夫の特集があった時、
インタビューで(絶唱の事を)「考えたらちょっと
気味の悪い話でしょ」と舟木一夫が答えていた。


さて「幽婚」の話
昼間、テレビを付けたら始まったドラマで
何となく魅せられて最後まで観てしまった。
(録画してないので、後半慌てて写真を撮り始めた)
平成10年だから、20年前のドラマ
ひょんなことから、死んだ若い女と婚礼を
あげさせられた男の話なのだが、怖い話ではない。

霊柩車の運転手をしている主人公(役所広司)が
若い男の依頼で、男の亡くなった婚約者の遺体(棺)を
四国の山奥の村まで運ぶことになる。
瀬戸大橋を渡り、村へ向かう途中、男は姿を消してしまう。
主人公は仕方なく、一人で女の遺体を運ぶ決心をする。
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深い山の中の吊り橋に行き当たり、車も通れないので
降りて吊り橋を渡ってゆくと…
主人公は二つの橋を渡っている。
橋ってこちらとあちらの隔たりをつなぐもの。
何かの暗示の様に思えた。
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巡査に出会ったので訳を話すと
すぐに村人呼んできてくれて、皆で棺を
担いで吊り橋を渡り、村へ入ってゆく。
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主人公を迎えたのは村長や村の長老たち。
「何としても佐和(女の名)さんを故郷まで
帰してあげようと思いまして」
「佐和ちゃんは良い人を連れてきてくれた」
運送代を請求する主人公に村長は驚くべきことを頼んできた。
佐和を演じてるのは、寺島しのぶ
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村に伝わる「幽婚」を佐和に上げさせてやりたいので
逃げた婚約者の代わりに花婿になって
一晩を花嫁と一緒に過ごしてくれ」と。
主人公は断って逃げ出すが、すぐに連れ戻されて
結局、祝言を。そして寝屋へ。
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遺体のそばで酒をあおり、やがて酔いつぶれた主人公、
夢か現か分からぬ景色の中で
寝間着姿の佐和が立っていた。
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死んだ自分をここまで送ってくれた主人公に礼を言い
「私、誰かに似てるでしょ」
「小学校の時の田中先生に似てると思った」
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「もう一人、似てる人がいるでしょ」
「俺の背中の吉祥天」
主人公は今は更生しているが、刺青のある元ヤクザだった。
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「私を忘れないで…」
翌朝、遺体と添い寝している主人公を見て
村長たちは心から礼を言う。
佐和の婚約者が逃げ出したのは、12年前にあった
幽婚で相手の男が翌朝滝つぼで死んでいたと言う話を
人から聞いたからだろうとも話した。
後日、主人公は上司(板東英二)の勧めで見合いをするが、
相手の女性は調べれば札付きの過去があり、
周囲は皆、反対をするが主人公は
この女性と結婚したいと、祝言をあげる。
周りは不思議がるのだが、その花嫁の顔は…
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はい、花嫁の顔は、寺島しのぶ

脚本は市川森一で、なるほど。
どこか哀愁を帯びた音楽が流れ、全体に
幻想的なドラマに仕上がっている。
でも、
この花嫁は佐和なのか、それとも別人なのか…
主人公が村を出る時、巡査が言ってる。
「この事は誰にもしゃべらないで下さい」と。
しゃべると災いがあるのか。
主人公はこの花嫁にしゃべってしまいそうな気がするのだが。
この役、寺島しのぶ以外に思い浮かばないほど
ハマっているのだけど、寺島しのぶって、
雪女に見えなくもない…