イイ男は絵が上手い
鴨居玲展
もう1か月前になりますが、伊丹市立美術館で
開催されていた展覧会です。
鴨居玲が没して30年になります。
上の絵も下の絵もモデルは画家自身で。
女性たちから注目と興味を注がれた男。
下着デザイナー、鴨居羊子の弟。
お洒落で軽妙(を装って)で女性に
愛され、金銭感覚ゼロで、金に困ると
懇意の画廊に無心する憎ったらしい男。
一番上の写真の絵は「1982年 私」と言うタイトル。
この頃、彼は絵が描けなくなっている。(描きたい物が見つからない)
クールベの「画家のアトリエ」をモチーフにして、真っ白なキャンバスの前で
苦悶する画家自身を描いている。その表情が憐れみを乞うように見えて
私には少しあざといような気がするのだが。
下の絵は「出を待つピエロ」 こんな明るい色を持ってきて、
この暗さはどうだろう。ピエロの絵なのに。(私はこの絵が一番気に入っている)
鴨居玲の絵は暗い作品が多い。その出発点になったのが「ドアはノックされた」
と言う作品。屋根裏部屋で息を殺して隠れ住むアンネ・フランクの家族が
ノックされたドアに怯える表情を見せている絵で、俳優の内藤武敏と
出会い、彼の舞台「アンネの日記」を見た事で生まれた絵だそうだ。
それからは描く方向を見つけ恋人と海外へ移住。自分の描きたい物だけを
描き続けて、やがて…
彼は「最後の晩餐」を描くつもりでいたようだけど、果たせないまま。
私は作品よりも先に画家の姿を知ってしまったために他の鑑賞者より
損をしている、絶対に。作品はやはり作品鑑賞から入る物でしょ。
先に「出を待つピエロ」を知ったとしたら、デッサン力に圧倒されて、
画家の姿を、きっと入道のような大男に想像しただろうし、
ピエロの表情に一縷のふてぶてしさも感じたかも知れない。
天性の美貌と才能に恵まれて、他人に注目され、自分の描きたい絵だけを描き、
描けなくなった時、その苦悩から逃れるために自らを終わらせる。
なんて贅沢な生き方だろう。